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釧路家庭裁判所 昭和41年(家)328号 審判 1966年11月29日

申立人 百田チヨ(仮名)

相手方 河野輝一(仮名)

事件本人 河野滋(仮名)

主文

事件本人河野滋の親権者を相手方河野輝一から申立人百田チヨに変更する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求め、その実情として次のとおり陳べている。すなわち、相手方と申立人は、昭和三七年六月一八日協議離婚をなし、その際事件本人の親権者を父である相手方と定めて、同人の許で養育していたが、事件本人は酒癖の悪い相手方と折り合わず、一時申立人の許に引取つたが、やがて再び相手方の許で生活するようになつたものの、時折り申立人の許に立寄つたり、又、理由のない家出をしたりして非行性を帯びてきたので、昭和四〇年九月一五日当庁に対し事件本人およびその兄誠の親権者変更の調停を申立てたが、この調停手続の進行中、事件本人が相手方の許を飛び出し、どうしても相手方の許に帰らないというので昭和四一年五月末から申立人が事件本人を引取り養育してきたが、事件本人の処遇に緊急性が出てきたので兄誠と一緒に親権者の変更を求めた前記調停手続では相手方の意向もあつて早急な解決が見込まれなくなつたためこの調停申立を取下げたうえ、事件本人一人についての本件申立に及んだものである。(なお、申立人としては、早急に本件を解決して事件本人を立直らせるべく考慮しているのであるが、現在相手方も共に再婚している立場にあるので双方顔を会わせる調停手続では、種々の弊害も予想されるので審判手続で処理されるべく申立に及んだものである。)

よつて審按するに、当庁昭和四〇年(家イ)第一一九号~一二〇号親権者変更調停事件記録編綴の筆頭者百田優、河野輝一各戸籍謄本および同事件について並びに本件についての当庁調査官作成の各報告書を総合すると、申立人が上記申立の実情として陳べている点はすべてこれを認められるほか、次のような点も認めることができる。すなわち(一)、申立人と相手方の協議離婚の際には、長男誠、二男昇、三男滋(本件の事件本人)長女栄子の未成年の子があつたため、協議のうえ、長男誠、三男滋の親権者を父である相手方、二男昇、長女栄子の親権者を母である申立人と定めたが、二男昇を除く三名は、一時母の許に同居し、相手方再婚の機会に、事件本人は相手方の許に引取られたものの、無断家出や怠学等が重なつたため、申立人主張のとおり長男誠と一緒に親権者変更の調停申立となつたものであること、(二)、事件本人は右調停手続進行中も家出、怠学のほか窃盗(近所の店から菓子類を万引)の非行を犯すまでになつて、児童相談所に通告されて同所に係属するに至り、結局、同相談所を中心として相手方の内妻織田恭子や事件本人の在学していた○○中学校の担任教諭、および申立人等の意向により昭和四一年七月二一日、事件本人を目梨郡○○町の申立人の祖母方に預けたものであること。(三)、この間において相手方は、昭和三八年に川上某女と婚姻したものの、間もなく離婚し、昭和三九年頃から子供二人を連れて織田恭子と同棲従前どおり○○○運輸の作業員として稼働し、漁網修理工として働らく内妻恭子とも円満にいつており事件本人の養育についても右恭子に一任し、同女も亦事件本人に対して偏見を抱くようなことはなかつたこと、(四)、しかし、事件本人は前記の如く相手方宅に落着かなかつたため、右恭子も事件本人のためであるなら同人を申立人に引渡しても良いとさえ考えるに至つたこと、(五)、他方、申立人は相手方と離婚後、昭和三八年九月百田優と婚姻して釧路市○町に世帯をもち、申立人が親権者となつている二男昇、長女栄子を右優の養子として養育してきたが、前記の如く、非行性を帯びた事件本人が度々申立人宅を訪れたりしたため、同人の将来を案じ昭和四一年七月二一日事件本人を○○町の申立人の祖母方に預けて監護方を依頼し現在に至つていること、(六)、事件本人は上記の如く○○町○町の祖母方に預けられ中学校に通うかたわら祖母方の手伝をしているが、同家には兄誠も同居して稼働していて落着いた生活を送れるようになつたことおよび通学している学校は右祖母宅のすぐ近くであり、且つ、事件本人の転校事情も充分に学校当局に打明けているため、学校側の充分な監督が期待される状況にあること、(七)、事件本人の祖母山神方は祖母マツが建在で、概ね同女の釆配によつて家業の漁業や家庭生活が動かされている状況で、事件本人と同年輩の孫達もおり、一応右マツの統制に服していること、および、右マツ宅は○○市街から約一〇キロメートルも離れた辺鄙な土地で、事件本人一名のみが単独行動をとりにくい環境にあり、且つ、事件本人も該環境に適応し落着いた生活を送つていること、以上の事実が認められる。そうであるから、事件本人を現在の状態に置くことが最も適切であると思料されるほか、この点について、上記織田恭子(親権者である相手方の内妻で事実上事件本人の養育監護にあたつていたもの)もやむを得ないものと了解していることを前提とすれば、事件本人が生活している前記山神方に最も協力できる地位にある者は、申立人というほかなく(夏休みなどは申立人も祖母の許で手伝つたりしている)、相手方では適切な協力を期待することは全く不可能に近い状況にあるということができる。だとすれば、この際事件本人の親権者を相手方から申立人に変更することが、事件本人の年齢等を考慮すれば、最も必要適切な措置であると解せられるので、民法第八一九条第一項、家事審判法第九条第一項乙類第七号により、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 門馬良夫)

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